寝かせて…
東京行きの新幹線最終に乗りおくれるまいと、やり残した最後のデータを打ち込みながら、むじなの森のジャンヌ・ゴトウは凱旋将軍である俺に、苦情をぶつけた。
「変な曲ばっかりかけていると思ったら、月の砂漠は道行きの歌だったのかなんて言うし、人を火あぶり女のジャンヌ・ダルクとかメーリングに書き散らすし、なんだって不吉なことばっかり言ってるんだろ。だいたいどうして東京から来るのにわざわざこんな短調な曲ばっかり選んで持ってきたの?」などと。
ジャンヌ・ゴトウは芸大のピアノ出のせいか、音楽にうるさいのであろうかといぶかりながら、まさか中島みゆきを東北道北上の間かけ続けてきたことを告げるわけにもいかず、「乗り遅れちゃうよ」といなしながらも、なぜかなと考えた。

考えたが、答えが見つかる前に眠くなってきた。さすがに深夜十二時を過ぎて食べた夕食のステーキは身にこたえる。前かがみでキーを打つと吐きそうである。

「寝かせて」とノブにぶら下げて、今夜はもう眠ろう。明日はどんなトラブルが楽しませてくれるのかを夢に見ながら。