あるプロデューサーの悲喜こもごものハワイ行き
以下は川田プロデューサーから届いたメール。
涙と腹を抱えることなくして読み通せなかったことと、
大作仕事の陰にこんなこともあるのだという証拠のために転記。


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10月4日(水)
午前3時(会社出発12時間前)
英語台本完成、PDFファイルにして帆風築地店に出力依頼に。
画像のカラー出力エラーの為、帰社しオリジナルデータをMOに
コピー。
全部で400MBを超える大容量の為、2枚に分けて収録。

午前4時(会社出発11時間前)
コピー、データ確認終了。
製本工程を考え、帆風をあきらめ、キンコーズ銀座店に依頼することを決意。出張準備の為、帰宅しなければならず、一分一秒を惜しみ、深夜の銀座をサンダル履きのまま走る。

午前4時10分(会社出発10時間50分前)
キンコーズ銀座店に到着。「出力はセルフサービス」という店員の指示に従い、レンタルマックの前に。パナソニック製のMOドライブにディスクを挿入。マックが固まる。それを見たワシも固まる。

午前4時30分(会社出発10時間30分前)
隣のレンタルマックに移動。MOが動作することを確認。安心。1枚目をプリント。「あっ」という間に、出力完了。あまりの出力スピードに感動しつつ、家に帰れる時間ができるぞ、と期待に胸ふくらませて、表紙から10枚分を一気に出力。

午前4時40分(会社出発10時間20分前)
「どう、キレイに出てる」というワシの問いに「ええ」と答える店員。笑みを浮かべつつ答える彼の顔を見て、ワシは喜色満面。一気に最終ページのアイコンまでダブルクリック。
十数枚を立ち上げたところで、「画像データが見つかりません」とのダイアログ。画像データだけを収録したMOディスクを左手に持ち、呆然とするワシ。「MOドライブが1台しかない・・・。」

午前4時45分(会社出発10時間15分前)
「画像データを一旦、レンタルマックのハードディスクにコピーして良いか」と店員に尋ねるワシ。「いいえ、それはできません」とマニュアル通りにワシに向かって答える店員。「終わったら消せば良いだろ」とちょっと憤怒モードのワシ。「でも、それは困るんですけど」と本当に困っている店員。「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。使ってないドライブはずしてこっちにつけるぞ」と、すでにシリアルケーブルを引き抜く寸前のワシ。「分かりました。どうぞ、ハードディスクにコピーしてください」と店員。「どうも有り難う。助かるよ。」とお礼を言いつつ、ケーブルの先にブランブランしているMOドライブを静かに置くワシ。
「人間、誠心誠意礼を尽くして接すれば、分かってくれるものだ」という祖父の口癖が脳裏をよぎる。

午前4時50分(会社出発10時間10分前)
特例で認めてくれたハードディスクへのコピー完了。再び、全ての書類アイコンをダブルクリック。「画像データがありません」のメッセージに、「ここ、ここ」と、ひとりごちるワシ。すると「お客様、これでいいんですか?」と出力完了のページを持って来て見せる店員。

表紙はOK。2枚目は「観客」ページ、これは日本語だけだ。・・・・・。3枚目以降は、使用フォントがレンタルマックに入っていない為、初期設定フォントに差し変わっていた。それも、14ポイントのスーパー極太ゴチックに!全ページが見切れてる。枠からはみ出てる。社会の枠からはみ出る暮らしをしているワシでも、用紙の中からはみ出て途中で終わっている文章は許せません。磐梯山の頂上まで飛んでいきそうになった我が魂を呼び戻し、立ち上げ途中の全ての書類を「キャンセル」。

午前5時(会社出発9時間前)
全書類の起動をキャンセル。一枚一枚、フォントを設定し直し、200パーセント拡大で文章を確認、70%縮小表示で全体レイアウトを指差し確認した後、ようやくプリント。

午前5時30分(会社出発8時間30分前)
窓の外が白々してくる。

午前6時(会社出発8時間前)
完徹3日にして、冴えまくる。カーペットに落ちたゼムクリップの音が聞こえる。「ねえ、大丈夫」と心配する益子さんの声が聞こえる。「大丈夫ですよ」と答える。店員が黙り始める。

午前7時(会社出発7時間前)
出力完了。全部、OK。細かいところを見直すと、・・・。無視する。

午前7時10分(会社出発6時間50分前)
製本を依頼する。出力したA3をオリジナルにして、B4縮小を3部、2時までに仕上げるように、やさしく依頼。

午前7時15分(会社出発6時間45分前)
ハードディスクにコピーしたデータを消去、確認してもらった後、店を出る。店に引き返す。製本スタイルの変更を依頼する。

午前7時30分(会社出発6時間30分前)
帰社。慌てる。

午前9時(会社出発5時間)
気が付いたら、家にいた。風邪で具合が悪い娘を気遣いつつ、支度をする。スーツケースをクロゼットから引っ張り出し、思いとどまる。ビジネスバッグに梱包開始。お土産が入らないことに気づき、思いとどまる。水着を入れようとして思いとどまる。自分が何をしているのか分からなくなり、呆然としているところを母ちゃんに見つかる。

午前10時(会社出発4時間前)
シャワーを浴びる。お湯と水を間違えて、冷水を浴び、その後に熱湯を浴びる。目が覚める。

午前11時(会社出発3時間前)
家を出る。急行電車に乗り遅れる。

午後0時30分(会社出発1時間30分前)
出社。決算をする。請求書が届いていない会社にメールを送る。担当作品の決算をする。本部次長に呼ばれ、担当作品の進捗状況を報告。これからハワイにいる監修者の博士に挨拶に行く、お土産やら買わなくちゃならんし、悠長に報告をしている時間などない、と早口でまくしたてる。「そうか、気を付けてな」と優しい言葉。

午後2時(会社出発予定時刻)
出発を1時間延期することに決める。

午後3時(離陸5時間前)
会社を出る。フィルム・ビデオテープ、手みやげを買うために銀座方面に。手みやげは、益子さんが善意で預けてくださった銘酒「花泉」にあわせて、「枡」に決定。築地を探しまくる。道具屋は全て閉店後であった。

午後3時20分(離陸4時間40分前)
歌舞伎座近くの土産店にて、純日本的柄の巾着袋6枚購入。

午後3時30分(離陸4時間30分前)
TAXIに乗車。箱崎TCATに向かう。

午後4時(離陸4時間前)
箱崎TCATに到着。チェックイン。とりあえず、土産物屋を見る。「動物占い」キーホルダーを見つけ、買うか買わないか躊躇する。(ハワイ土産に「動物占い」もないもんだ)と気づき、買わないことに決める。コーヒーのお代わりができる2Fのマクドナルドに入る。口を付けた途端、千恵から電話が入る。電波状況が最悪の為、コーヒーを飲み干せないまま、店を出る。

午後4時30分(離陸3時間30分前)
リムジンバスに乗車。乗客5人の贅沢ドライブ。

午後5時30分(離陸2時間30分前)
成田に到着。土産物屋をハシゴする。「枡」をひたすら探しまくる。結局、見つからず、オチョコに宗旨替えする。

午後6時00分(離陸2時間前)
入国審査を経て、免税品店に入る。タバコを買う。母ちゃんに言われていたボックスタイプのコーチの財布を探す。コーチの店を覗く。財布が見つかる。「いらっしゃいませ」という女性店員の声に、「Just looking」と英語で答えて、店を出る。正札の金額が目に焼き付いた。

午後6時15分(離陸1時間45分前)
搭乗ゲートに到着。喫煙コーナーに居続ける。タバコを吸い続ける。気持ちが悪くなる。

午後7時(離陸1時間前)
搭乗開始。気持ち悪いのをガマンして、タバコを吸い続ける。

午後7時30分(離陸30分前)
搭乗。22番A。スッチーの真ん前だと期待していたが、そのすぐ後ろであることに気づく。狭い。隣は新婚夫婦。

午後7時45分。(離陸15分前)
気を失う。

午後8時30分(離陸後30分)
離陸はおぼろげ。ジュースを配るスッチーの声に目覚める。おしぼりは回収の後。菓子を食べつつ、隣の新婚の会話に耳を立てる。横目で二人の仕草を観察。(おいおい、始まっちゃうんじゃないか?!)と心配になる。ちょっとうらやましい。食事の後、再び気を失う。

午前2時(到着2時間前)
窓外をひたすら眺める。夜明け。素晴らしい光景。夜が明けきった時、眼下の海を注視する。いつもの癖でクジラを探す。

午前3時30分(到着30分前)
オアフ島が見える。パールハーバーが見える。(あの時代、ここまで来るにはエライ騒ぎだったろう)と精霊達に思いを馳せる。

現地午前8時(復路の離陸27時間前)
到着。花のレイを期待するが、そんな気配は全くなし。損した気分。

午前8時30分(離陸26時間30分前)
入国審査の為、行列に加わる。家族単位で受け付けてくれるので、3世代のツアーを見て、ちょっと嬉しい気分を味わう。それに比べて、目の前の新婚夫婦が、別々に審査を受けている姿を見て、大笑い。まだ、家族じゃないみたい。

午前8時40分(離陸26時間20分前)
入国審査。「何日の滞在?」「オンリー・ワン・デイ」女性審査官がこちらを見る。「何しに?」「ミーティング」「誰と?」「ハワイ大学の博士。私がプロデュースする映画の監修者」「職業は?」(映画をプロデュースしてると言っておろうが)という言葉を飲み込み、「映画のプロデューサー」審査官が笑い始める。「本当に1日」「イエス。後、26時間後には出発する」「1日のハワイを楽しんで」と言うので、「では、また明日」と答えると大笑いされる。ただごとではない気配に、セキュリティが2名、駆けつける。「バカンス?」「ビジネス」「いつ帰る?」「明日」「本当」「では、また明日」馬鹿笑いされる。

午前9時(離陸26時間前)
空港ロビーで、通訳を頼んだニック・ボージさんに会う。とっても紳士。スーツ姿の私を見て、不思議な笑みを浮かべる。

午前9時30分(離陸25時間30分前)
ニックの車で天文研究所に向かう。約束は10時だったので、近くのスターバックスに入る。

午前9時50分(離陸25時間10分前)
研究所に入る。オーエン研究室の場所を聞き、建物内へ。迷う。

午前10時(離陸25時間前)
オーエン博士に面会。「貴殿に会えて光栄です。下手くそな英語のメールを無理強いして申し訳なかった」と詫びる。「いやいや、シンプルで必要なことしか書いてないので非常に良いメールである」と評価される。
デスク前に座り、バッグを開け、お土産披露。益子さんからの酒に「酒は大好きだ」私のオチョコに「甘いモノは大好きだ」。おいおい、オチョコ、チョコレートじゃない。宮本さん、西田さん、益子さんの手紙を手渡す。「good」

午前11時45分(離陸23時間15分前)
打合終了。パビリオンの概略、映像ソフトの説明を終える。

午後0時(離陸23時間前)
研究所近くの和食レストランに連れて行ってもらう。ブッフェスタイルなので、いつもの通り、皿に山盛りにしようと思ったが、博士・ニックさんが少ししか盛らなかったのを見て、ガマンする。盛らなくて良かったと思う味付けであった。

午後1時(離陸22時間前)
結局、博士にオゴッテもらう。

午後1時30分(離陸21時間30分前)
ハワイ大学の構内をドライブした後、ホテルに到着。ハワイ大学の購買部で土産を買いたいと、通訳に伝えていたが、訳の分からない事を口走る私をみて、早々にホテルに入った方が良い、と判断しただろうことが、後に判明する。

「チェックインは午後3時から」というレセプションの女性に、食い下がる通訳。「いいよ、隣のショッピングセンターでも見てるから」と諦める。

午後1時45分(離陸21時間15分前)
アラモナショッピングセンターに入る。Tシャツ・短パン姿の買い物客の波に、逆らうように歩くスーツ姿の
ワシ。みんな、よける。ベンチに腰掛ける。タバコを吸いながら、横になる。注目を浴びないが、みんながワシを意識しているのがあからさま。

午後3時(離陸20時間前)
ホテルにチェックイン。22階の部屋から、ダイヤモンドヘッドを眺める。観光終了。寝る。

午後7時(離陸16時間前)
目覚める。高橋さんや千恵、会社に連絡。

午後8時(離陸15時間前)
シャワーを浴びて、ベッドに横になった途端、気を失う。

午前5時(出発6時間前)
寒さで目覚める。バスタオルを取り、素っ裸のまま、布団に潜り込む。ドコモの携帯を目覚ましセット。(ああ、圏外だ・・・)と漠然と思う。

午前8時(離陸3時間前)
起床。猛烈な空腹感に捕らわれる。1Fのレストランに入る。日系人のおばちゃんと会話。「食事のクーポンかバウチャーを持ってる?」「ううん、現金で払うよ」から始まって、いかに私が不幸な状況にあるかということなどを話す。全部、英語。当然。隣に3世代家族が座る。すると日系人のおばちゃん「お早うございますう。食券はお持ちですか?」おいおい、日本語の方が流ちょうじゃねーか。それも、食券?江ノ島のレストランじゃあるまいし。

午前8時45分(離陸2時間15分前)
1階にある土産物屋で、マッハのスピードで買い物。

午前9時10分(離陸1時間50分前)
ロビーで通訳と合流。ホノルル空港に送ってもらう。

午前9時30分(離陸1時間30分前)
「帰りの飛行機は、ユナイテッドのコードシェア便だからユナイテッドのカウンターに送って」と頼むも、「川田さん、ANAのカウンターはここネ」と、降ろされる。一応、ANAカウンターに行くと、やはりユナイテッドのカウンターで受け付けろという。

午前9時45分(離陸1時間15分前)
ユナイテッドのカウンターの行列に加わる。最後尾。

午前10時15分(離陸45分前)
ようやく受付けてくれる。土産物屋に入り、アロハシャツのポストイットを6点買う。レジ打つおばさん、「あれ、7つ?」「あんた、一個多く打ち込んでるよ。まあ、いいや。もう一つ買おう」「あら、嬉しい。そうか、こうすれば数が売れるのね」とのたまうばばあ。とりあわずに店をでる。空港内で悠然とタバコをふかしていると、小錦に似ているおばさんに「成田?」「うん」「急げ!」慌てる。

午前10時40分(離陸20分前)
飛行機に乗り込む。59番A席。後方だから3列から2列になる席で、左側に余裕があるエコノミー利用者のささやかな喜びを感じられる席。隣はオタッキーな風体のお兄ちゃん。

午前11時(離陸時間)
ひときわ高まるエンジン音。(出発かな)と思った途端、エンジンが切られる。機内は消灯。ムンムンと暑くなる。しばらくして機内放送。「当機は、ただいまから離陸の為の最終チェックに入ります」(おっ、帰国が1日伸びるかな、ワイキキ行きたい、オアフ島を一周だ。レンタカー借りよう、国際免許ないけど、ハワイだし。フラダンスも見たいな。買い物はし直しだ。映画も見られるぞ。博物館や美術館も、駆け足でもいいから見に行こう)

午前11時35分(離陸−35分)
「当機は、最終チェックが終わり、これから離陸いたします」

離陸。旋回中にパールハーバー、ワイキキ、ダイヤモンドヘッドを観光。ダイヤモンドヘッドって、上から見ると、ダイヤの指輪のカタチの火山であることに気づいた。(そうか、だから、あの台形の部分はダイヤモンドヘッドなんだ)と、観光本の1ページに書いてあるだろうことを発見した喜びに、思わずメモする。

機内。両足を左側の肘掛けに載せ、右側の肘掛けに背中をもたれさせ、器用な格好で寝る。


日本時間午後2時(予定時刻ぴったし)
降機。携帯の電源を入れるや否や「あっ、川田さん」と電通営業。「今日の打合6時から、新宿ですから」「はあ」「出てもらえますよね。場合によっては、先に進めてください」「はあ」「ところで、今 どこですか?」「成田・・・飛行機降りたばりなんですけど」「そうですか、それじゃ」

午後2時30分(別件打合開始3時間30分前)
リムジンバスのカウンターに並ぶ。新宿行きか、箱崎行きか、迷う。2時50分発の箱崎行きのチケットを買う。

午後2時45分(打合開始3時間15分前)
不意の便意におそわれ、バス停前にいる係員に「うんちしたいので、50分には間に合わない」と告げる。「すぐそこにありますから、急いで!」と人の話を聞かない。お仕事済ませて、悠々とバス停へ。待ってやんの、バス。係りのお兄ちゃん、会心の笑みで「間に合いましたねえ」

午後4時(打合開始2時間前)
箱崎到着。タクシーに乗り換える。すると運転手が「お客さん、鳥取にはご親戚ありませんか?」と尋ねてくる、いきなり。(えっ、オレって鳥取の顔してるのかな、髪型が乱れてるけどトサカには見えないし)と思いつつ「なんで?」「いやあ、今日もの凄い地震があったらしいんです」ラジオの音に耳を傾け、死者はまだいないというNHKのアナウンスに、(そうだろう、人間住んでねーし)なんて思う。

午後4時30分(打合開始1時間30分前)
帰社。とりあえず、部へのお土産をデスクに預け、打合の準備を。本部次長が「おお、川田。あの話だけどなあ」と藪から棒に話しかけてくる。ひとしきり話を一方的に進めた後、「うん?お前、どっか行ってたの?」「ええ、ハワイに」「何しに?」「一昨日、お話しましたよね!」