鉄鍋餃子を食って考えた
二週間ぶりにオフ。
「アリーマイラブ」の2ndシリーズを2話分観た。
新登場の女弁護士のキャラクター、波乱を予感させて秀逸。
このドラマの成功ポイントは数あるが、
なかでも最大のものが「男女共用トイレルーム」。
この共用スペースの存在が、ドラマツルギーに深みと奥行きを
与えている。アイディアといえばそれまでだが、
時代の深層に潜む潮流をよく嗅ぎつけているな、と思う。
一見、奇抜でありながら、文法に忠実なこういう芸当を
日本のドラマづくりは絶対に出来ない。
理由はただひとつ。おかしな言い方だが、
教養が、ないのだ。俺の国は。
このことを書くと哀しくなるから、やめよう。

昼過ぎまでカバのように眠って、
シャワーを浴び、くわえタバコとサンダル履きで鉄鍋餃子を
食いに出る。店につくまでに三本のタバコを道路に投げ捨てた。
通り掛かりの若い女に顏をしかめられたが、ここは蒲田なので
久しぶりに育った街の空気に合わせたくなり、
「店でも紹介してやろうか」と言うと走って逃げていった。
どうもJTの人を食ったような緒方の「ワタシは吸い殻を捨てない」
とかいうCM以来、タバコを投げ捨てたくなって困る。
若い女の子には悪いことをしたが、今日は完全にオフモードだったから…

さいきん地元で気に入っている店が二軒ある。
一軒は鉄鍋餃子屋。もう一軒は焼き肉屋。
かたや中国人の店員たちが、かたや台湾人の店員たちが、
ウーロン茶のCMのような含羞のあるほほ笑みを浮かべて
サービスをしてくれる、バカみたいに安い店だ。
この二つの店では、俺は従業員の顏を見ながら注文をし
ありがとうという。
他の日本人のお兄ちゃんやお姉ちゃんのいる店では、
できるだけ顏を合わせないように下を向いて注文をし
そそくさと食べ終えて店を出ることにしている。
顏を見ると殴りつけたくなるから。
俺はむかしこの街で生きていたころのようには若くないので顏を見ないのだ。歳をとると、むかしは怖くなかった自分が、ときどき怖くなることに気づかされる。ギヤばっかりふえちゃうんだよ。


今日も鉄鍋餃子はうまく、店員の笑顔は気持ち良かった。

自分が加速度的に異邦人になっていくのがちょっと不安だが、
ま、俺は時代と寝たのだから、多くは望むまい。

仕事から完全に離れた状態で盛り場を歩かないこと。
これが本日の教訓である。
仕事というのがいかに自分をセーブしてくれているのか
よくわかった気がした。
風は甘く、空は高かった。
明日からはきっと秋風が吹くだろう。