「始祖鳥記」と二本のひまわり
「始祖鳥記」飯嶋和一/小学館

いや、ぶっ飛んだ。
熱い小説である。ページすみずみまで志と情熱だけで書かれた一巻。あの「雷電」のときにはこんな資質を備えた作家とはとうてい思えなかった。変わった題材と抑制された文体だけが記憶に残っていた。ついにストックがつきかけて、冬に買って積んでおいた未読の山の下から引き上げ、昨日寝不足でもうろうとした状態でソファに寝転がってさわりだけと思いながら読みかけて、すぐに手が止まった。目が覚めた。冷蔵庫から枝豆を出し、一山ゆで、こーピーをポットに一晩分用意。
いちどシャワーを浴び、頭をすっきりしてから机に枝豆の大皿とコーヒーポットを持っていって、再開。
結局、今朝8時過ぎに読み終わる。
ことしの夏を思い出すときのよすがとなる一冊だった。
なによりもすぐれた小説世界を堪能。
珍しく一語一語をたどるように丹念に読んだ。
冬に求めた、この夏最大の収穫だった。

ひまわりのロケが中止になったので昨日二本のひまわりを買ってきてもらった。読後のもうろうとした目にいちばんに飛び込んできたのが、そのひまわりの黄だった。

撮影はできなかったが、俺の胸には、一冊の小説とともに
二本のあざやかな黄の花が残った。

盆の送り火に、ふさわしい夜だった。