若女将と黒い「こわばり」と。
かなりの人数の撮影隊と、どこか地方の山あいを旅していた。何の撮影かわからないが、何人かは見慣れた顏だった。
くたびれ果てて、ある大きな宿に着いた。二階の広間のようなところで寝転がって窓の外を眺めていたら、なだらかな丘が広がっていて、牧草地のようにもニュージーランドの田舎のようにも見えた。しかし、部屋のつくりは純然たる日本家屋。
若い女将がやってきて、「ことしも楽しみにして待っていたんですよ、待ちくたびれるくらいに…」と笑いかけた。
見たことのあるようなないようなはっきりしない気分のまま笑っていると、広間に黒いカタマリが猛烈な勢いでとびこんできた。
まっすぐにとびかかってきて、しきりに鼻をこすりつけてくる。犬のような猫のような生き物だった。
その生き物に強い親近感を感じているらしく、とても嬉しい気分で懐に抱いた。抱きしめるといとおしさがこみあげてきた。

若い女将が婉然と笑いながら「ほらね」と言った。
待ちくたびれていたのは女将ではなく、その生き物だったらしい。
なぜかはぐらかされた気分にはならず、ぼくはその生き物を抱いて布団に横になり、窓の外に広がるどこか懐かしいしかし異国のようにも思える景色をおだやかな気分で眺めているうちに寝入った。

…寝入った、というところで目が覚めた。
午前七時。寝ついて三時間。すっきりと目覚めるには少なすぎる時間だったが、目覚めはすごく爽快だった。


なにかとても良い報せを告げられた、そんな気分だった。
2000年8月4日朝のことである。
今日は10時から五反田のイマジカで夏ロケの試写。
さて20世紀最後の夏の水の光景は、
どんなふうにフィルムに定着されてくれたのか。


大型、3D映像への初挑戦、
勝つか負けるか、
正念場ではある。