「闇の貴族」の底浅い闇
「闇の貴族」新堂冬樹/講談社刊行

話題になっている「無間地獄」よりはこっちの方が
まだマシではないのか。
それにしても材料のてんこ盛りには呆れた。
解説の日下が、豊富な素材を惜しげなく使い、
圧倒的なスピード感で突っ走るとか書いているが、
映画じゃあるまいし、いまどき小説でスピード感も
ないだろう。逆だよ。
踏みとどまって今の三倍のボリュームに仕上げていたら
新堂は化けたかもしれないが、
このままだと大藪春彦にはももちろん馳星周にすら
足元にも及ばないね。いちおうは編集者がついてるのだろうから、
書き言葉と話し言葉のチェックていどはするべきだろう。
ヤクザのせりふのなかに「…前述した…」という言い方が
出てきたときは腰が引けた。キッチュではあるが、
キッチュなピカレスクというのもな。
ただ、最後まで引っ張る力は相当なもの。
ラスト近くのアクションになるとずっこけるが
エピローグまで読むことができた。
パワーはたいしたものではある。