子どもの空間:/7 違ってていい 「うつ病」の妹、葛藤した姉
「起きて! 学校行かないの?」。動き出す気配のない妹(14)のベッドに声をかける。「いやだ、行かない」

 迎えに来た友達に、母(45)は「今日は調子が悪くて」といつものように謝る。その子たちの後ろから登校するのが気まずくて、追い越さないように雪の住宅街をゆっくり歩いた。

 私だって毎日耐えてるんだ。普通の人になってよ!

 北海道。1年前の冬、高校受験を控えた少女(16)はいら立っていた。登校を嫌がるようになった妹は昨年5月、うつ病と診断された。

 妹は男の子とばかり遊んでいたから、群れるのが好きじゃない。教室でもよく一人で絵を描いていた。それでも一目置かれていたのは、2学年上の自分が優等生だったこともあるかもしれない。

 学校に行かなくなったきっかけは、クラスでのいじめだ。中1の2学期。ある女子が中心になり、全員が一人の女子を標的にした。妹にとっては首謀者も被害者も友達。被害者と一緒にいると、妹まで無視された。「何で私がかばわなきゃいけないんだ。そう思う自分が最悪」。そのうち「消えてなくなりたい」と言い出した。

 学級委員を3年間続けた自分には、理解できない。「2人のどっちか、切り捨てればいいのに」「そういうことじゃないんだよ」

 母と入った風呂で諭された。「妹の方が優しいよ」。じゃあ、私は冷酷な人間なの? 泣きじゃくった。

 ずっとトップの成績で、クラスを仕切ってきた。やればできるのが楽しかったし、受験に必要な内申点を稼ぐためにも、先生や周囲の目を気にしてきた。なのに、「問題児の家族」と見られているように感じ、葛藤(かっとう)した。

 「学級委員になって、いじめをなくす活動をしてみたら?」と提案したこともある。妹は頑張った。でも他の子は議論する気がなくて、重圧を感じさせてしまった。

 妹は妹。違う感じ方もある。そう思えるようになったのは高校に入ってからだ。自由な人も、自分より優秀な人も大勢いる。「優等生」から解放された気がする。

 高校の友達と家族の話になった時、言ってみた。「うちの妹、病気で学校に行ってないんだ」「へー、大変だねー」。なあんだ、こんなもんか。

 両親は理解者でなきゃいけないし、ただでさえ甘い。自分くらいはいつも通りの姉でいよう。ケンカも手加減は少しだけ。病気だからって、風呂のお湯がたまったら、蛇口くらい閉めるべきでしょ。

 今年の冬は雪が少ない。セントラルヒーティングの利いた夕食後の居間で、2人で笑い転げる。妹はまだうまく眠れない夜もある。でも、このところ犬の散歩も続けている。

 この前、一緒に風呂に入った。湯船で「習い事に戻ろうかな」と言ってきた。びっくりしたけど、あおってヘソを曲げてもいけないから、素っ気なく返しておいた。【中本泰代】=つづく

 ◇子どももうつになる

 北海道大学の伝田健三助教授(児童精神医学)らが04年、小中学生約3300人を対象に調査し、全体の13%(小学生で7.8%、中学生で22.8%)に抑うつ傾向がみられたと発表した。ストレス社会で子どものうつ病が増えているとの見方がある一方、大人と同じ診断基準を疑問視する声もある。

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