レンガの一撃
☆これは、「Yes,I Can」と言う本にある、アメリカの「Hit By A Brick」と言う、作者不明の詩を訳された物です。


10年ほど前のこと、若くして成功したジョシュという男がシカゴの道路を車で走っていた。

二ヶ月ほど前に購入した真新しい12気筒のジャガーXKEはややスピードが出すぎていた。


彼は路上駐車の間から飛び出す子供を注意しながら、何かしら気配を感じたので車の速度を落とした。

車が通り過ぎようとした瞬間、子供ではなくレンガのような物が飛んできた。

ガツーン・・・!!

ジャガーのピカピカの黒いドアに当たった。

キキーッ・・・!!

急ブレーキのあと、直ちにギアをバックに入れ、狂ったようにレンガが飛んできた地点に戻った。


ジョシュは車から飛び降りるなり子供をつかみ、駐車している他の車に押し付けて叫んだ。

「これはどういうことなんだ!、おまえは誰だ?、とんでもないことをしたんだぞ!」

怒りで血がのぼった彼はさらに続けた。

「あれは俺の新品のジャガーだ!、レンガを投げたおまえは大金を払うんだぞ、一体なぜあんなものを投げたんだ?」


「どうか・・・、お願いです、許してください、こうする以外どうしようもなかったんです」

と、子供は訴えるように言った。

「誰も止まってくれないから投げたんです」

駐車中の車の向こうを指差しながら、大粒の涙が少年のあごからしたたり落ちた。

「あれ、ぼくの兄さんです」と彼は言った。

「歩道を乗り越えたら車椅子から落ちて・・・ぼくでは持ち上げられないんだ」

少年はすすり泣きながら頼んだ。

「どうか車椅子に乗せるのを手伝ってください、怪我をしているし、ぼくにはとても重くて・・・」


言葉も出ないほど心を動かされた若い経営者は、胸がいっぱいになるのを懸命にこらえようとした。

彼は若者を抱きかかえるようにして車椅子に戻し、ハンカチを取り出し、すり傷や切り傷をぬぐった。

そして何もかも大丈夫かどうかを確かめた。


やがて、兄をのせた車椅子を押しながら、家に帰っていく弟の姿を見送った。

ジョシュが車のジャガーまで戻る足取りは、どれほど重く長く感じたことだろう。

彼はドアの傷を修理せずそのまま残すことにした。

彼の注意を引くために、誰かがレンガを投げなければならないほど自分の人生を急いではいけないという戒めにしたかったから、彼にとっては、柔らかいレンガだったのかも知れない。


ところで、あなたはレンガで打たれた経験は・・・?