閼伽井の朱馬
京都市に新幹線とかで来られる方にとって、京都に来たと目につくのは京都タワーと東寺の五重塔だそうである、私なども東寺の五重搭を見ると京都に帰ってきたと実感したりする。

京都市の南区にあり京都駅の南西の九条大宮にあるのが空海こと弘法大師が開基となった「東寺」である。

正式には「教王護国寺・秘密伝法院」と言うのだが東寺と言う呼び方が一般的であり、これは平安京が造営された折に都の正門となる羅城門を挟んで東寺と西寺が建てられた事からの呼び方である、ちなみに西寺は現在は西寺公園として史跡を残すのみである。

実は私の実家はこの東寺のすぐ近くであり私にとっても東寺は子供の頃からの遊び場であり、また中学校も東寺の近くだったので、中学時代の3年間は東寺の門前を通って通学してたくらいで、私にとって身近なお寺なのである。

東寺と言えば五重搭がシンボルのようになっているが、平安京からほとんど建物や位置が変わってないので、平安京の当時の規模や位置関係を知る基本となってもいるそうである。

その東寺は、また毎月21日に「弘法さん」と言われるガラクタ市が開かれる事でも有名で、広い境内いっぱいに1000店以上とも言われる様々な露店が並び、骨董品から仏具や工芸品、食べ物や古着などあらゆる露店で多くの人々で賑わっている。

さて、弘法さんは毎月21日に開かれると書いたが、これは弘法大師の命日が4月21日とされているからで、毎月の21日に弘法さんが開かれるようになったのだそうだ。

そして、命日の4月21日には東寺でも特別の行事が行われるのである。

東寺の境内でも南西の角にある「灌頂院」(かんじょういん)と言う塔頭があるが、ここは修行によりある程度の水準に達した僧侶に真言密教の継承の儀式(灌頂の儀式)が行われる場所であり、他にも重要な密教儀式を行われたりするので、普段は門を閉ざして非公開とされている。

この灌頂院の門が一般にも開かれるのが1月8日~14日までの「後七日御修法」の時と、4月21日の「正御影供」の時期だけである。

その4月21日には、灌頂院の中にある「閼伽井」(あかい)と言う井戸を蓋うお堂の庇に三枚の絵馬が架けられる。

閼伽井は灌頂院の北門を入って西側に小さなお堂が建っているのがそうで、お堂の中には閼伽井と言う井戸があり、かつては神泉苑とも繋がっていて水を涌かせていたが、新幹線の工事のおりに枯れてしまったそうだ。

現在では儀式の時などは神泉苑から水を汲んでくるとも聞いた事がある。

このお堂の正面に先に書いたように、4月21日にだけ三枚の絵馬が架けられて公開される。

この絵馬は「朱馬」と言い、白い四角い板に赤い色で馬の姿が描かれた物で、かつて弘法大師が毎年一夜にして絵馬を書き上げ、それによって吉凶の占いを行った事に由来するようだ。

現在でも、4月21日に徳のある僧正が灌頂院の締め切った暗闇の中で一枚の朱馬を一気に書き上げるそうで、読経して精神を集中すると弘法大師が降りてきて僧正の手に憑いて描かせるとも言われており、この朱馬の絵馬を見る者の邪気を祓い、幸運を運ぶと言われている。

閼伽井には三枚の朱馬が架けられるが、毎年に描かれるのは一枚で、この三枚の朱馬の絵馬は、三枚のうち右が昨年の物で、左が一昨年の物、真中が今年の物だそうである。

その朱馬の馬の絵の具合で三枚の絵馬を見比べて、馬の顔が長い年は長雨が続くとか、胴が長いと日照りが少ないとか言う具合に、馬の絵でその年の天候や農作物の出来を占うそうである。

昔は東寺の付近にも畑や農家もかなりあり農作や天候の占いも大事だったのだろうし、遠くからも見に来たそうである。

確かに三枚の朱馬の馬を見比べると微妙に違ってたりして、目の具合や足の上げ方や尾の様子などでも占えるそうで、それぞれに吉凶を判断できるのが面白いかも知れない。

さて今年の天候や農作物の出来具合、吉凶はいかがだろうか?

今年が良い年になる事を願いたい。