19才の初夏 
あの頃の私は本当に何ひとつ無かった。
19才と言えば大学に進んだ人、職場で働く人、
新しい社会に出た私は嬉しくて胸がいっぱいだった。

下町も景気が良く木造の建物からビルへと様変わりし、
同時入社した友達もとても楽しそうだった。

この年齢になると自動車教習所に行く友達が多く、
私も友達と一緒に教習所まで行き、
見送って帰って来ると言う事は一回で辞めた。

月給を全額といってもいいほど両親に渡していたので
車の免許どころか、成人式に着る振袖やスーツも買えない。

幸い、会社の親友と体系が似ていたので社員旅行に行く時は、
親友の洋服を借りて行った思い出がある。

ただ、あの写真を見れば私だけが靴ではなく
サンダルを履いて写っていた。あの洋服に合う靴も無かった。

その半年後、社内でクリスマスパーティーが有り、
「踊りましょう!」座っていた私に笑顔で声をかけてくれた
眼の奇麗な男性が立っていた。

なんて眼の輝いている清潔そうな方だろうと思い、
兄のように優しい彼を尊敬していた。
晩生な私に恋愛等はできるはずがない。

眼の美しい兄のような先輩に婚約者が居ると聞いた時、
私のような極貧の娘ではなく、富豪のお嬢様だった。

私の実家は負債を抱えていた為、誰とも交際はしないまま
働き続け、その4年後、気が付けば親友も友達も結婚をしていた。

その時、働いて何時か皆を見返してやろうという気持ちがわき、
数年後には生活も人並みになったが、私生活は仕事に追われ
時間に余裕のない毎日だった。

私が現在19才なら、親を捨てゝも自分の人生は自分で決めたい。
そして泣く事が有っても最後は幸せを自分の手でつかみたい。