親愛なる風の人へ

久しぶりにあなたを街で見かけました。
あなたは、あんな何気ない陽だまりの中にいて
まるで、人生の終わりを悔いのないように
微笑んでいるご老人のように見えました

でも、お元気そうで安心しました

僕は少しだけ、会釈をして通りすぎましたが
あなたは相変わらず、静かに佇んでいるだけなのですね
でも、それがあなたらしくて、ほんの少しだけ、僕は微笑んでいたかもしれません
もしも気分を害したなら、ごめんなさい

僕は、よく晴れた午後の昼下がりの中、ひとりきり、歩いていました
特に何か目的があった訳じゃないのですが、冬の影がいくつも長く伸びていて
まだ午後2時だというのに、夕暮れのような寂しさに、思いっきり泣いた後のような
そんな気持ちが、この心をいたずらに乱してしまうようです

不意にパタパタとスズメたちが、見知らぬ家の玄関先の
あなたの陽だまりに集まってきました。
なんだろうってとても不思議に思っていたら
そこに何かエサのようなものがまかれてあったのですね。

あんなやさしい気持ちもあなたが、差し向けたものなのですか?
スズメたちは、それを感謝している訳ではないのでしょうけど
それを見ていた僕のほうが、何かに感謝したくなりました

  ありがとう・・・ 

あなたには、この言葉がよく似合います。
もしかしたら、その言葉そのものが、あなたかもしれない

なんて、そんなあたたかな冬の昼下がりでした


   親愛なる風の人へ


それではまた、手紙を書きます
   
心から、ありがとう