2003年09月の記事


「秋暮れる」
夕風の
紅き色して
稲穂垂れ

収穫の日の
はずむ思い出
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「森林」
木は ただ独りで立っているのだよ
支えるものもなく
支えられるものもなく
独りで立っているのだよ

木になろう
山肌に根を張り
水を蓄え
土を肥やし
命を育む
木になろう

木は独りで立っているのだよ
風を受けて
まっすぐ 空へ向っているのだよ
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「春を売る少女」
哀しげに あるいは
投げやりに微笑む少女がたたずむ
橋のたもと
何をしているのかと訊ねると
春を売るのだと言う
ぼくは
いくらならいいのと
聞き返すと
「あなたの愛の値段で」
と答えが返ってきた
ぼくは ぼくがもっている
払えうるだけの愛を
少女に与えた
少女は 胸の奥から
ピンク色のハートを取り出して
ナイフで削る


ぼくの手のひらの中に
おとしてくれたのは
少女の持っていた「春」
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「秋の夜長」
夜長が始まる秋の始まり
独り起きて
CDをセット
本を開く
音色に合わせて
めくる言葉は夜想曲
めくるめくことばは
情熱のタンゴ 単語
独り遊びのコトバアソビは
今宵も続く
秋の夜長は長雨の兆し
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「エンドレス」
ことばを紡ぐ
あなたにたどりつけるように

紡ぐことばはエンドレス
いつになったら
あなたに届くのでしょう
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「邂逅」
会いたいけど 会えない
会うのが怖い

だけど
共に崩れていくのではなく
あなたと築き上げてゆく
悦びは それ
肌を触れ合うことが目的ではなく
同じ時に存在しつづけること
悦びは それ

受け入れる性(さが)は
リアルな夢
切り捨てられる現実
終わりになる夢

夢は夢のままで
夢の中で あなたに
逢いたい

――――――――from[矢井田瞳]’s song
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「虫の音」
独り聴く
夜露の光
虫の音の
こころさびしき
闇の訪れ
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「ヒエ抜き」
ざわめく稲の
間を縫って
稲より高く伸びた穂を
抜く

高く晴れた空を
雲が走り
稲が波打つ
わたしは
ただひとつの植物になる
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「睡魔」
闘う気力すら残されていないのに
まどろみの中で
ふいに
人間は仏にはなれるが
神にはなれないのだと
気がつく深夜

おかしなものだが
言葉は闇の中から
降りてくる
魑魅魍魎と同類だ
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「ロールプレイ」
崩れ落ちるビルディングを
ゲームのひとコマのように
繰り返すメディア

代わりの無い日常を
過ごす人々の目には
映画の一幕のように
可笑しくもあっただろう

瓦礫の下の命
地震であれ、洪水であれ
神の下した鉄槌には逆らえぬ

繰り返される戦火は
誰を勝利へ導くのだ
瓦礫の下の命は
復活するという保証を
口約束だけで契約できたのか

エンディングの定まらないゲームを
終らせられるのは 誰だ
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「残暑」
鳴くセミの
憂いを帯びて
夏は暮れ
恋の焼け跡
蹴飛ばしてみる
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「彼岸花」
陰々たる螺旋を独りゆく
旅は時として
うごめく慕情

上りつめれば
扉は開け放たれるのだろうか
あるいは
闇と同化して
落ちてゆく肉体を見出すのであろうか

哀しくもなく
可笑しくもなく
闇の中に花は紅く咲く
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「帰り道」
夕立のあとの帰り道
夏の埃の匂いして
あのことつないだ
手の温もりは
胸の痛みにも似ているな
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