亀山郁夫著『悲劇のロシア』
 亀山郁夫著『悲劇のロシア』。結構、長期間にわたり通勤のバッグの中で移動したことになるが、全八話を読み上げた。副題に「ドストエフスキーからショスタコービッチへ」とある。文豪から詩人、作曲家までロシアの表現芸術家の作品と数奇な運命が解析される。

 ロシアの文学や芸術。なんとなく、重苦しく暗い。雄大で、「それが良い」という人もおるが、一概に大陸の所産とだけは言えないようである。社会主義の政治権力と、多数の民衆のなかにあって、民衆を背景にもつ知の集団。芸術家たちはその表現を通じて、民衆の叡智を体現しつつも、政治権力との競合を無視しては成り立たない。

 ドストエフスキーに「不意の死」、ショスタコービッチに「不意の暴力」。ドストエフスキーの文学作品に「父との葛藤」。
 寒冷な風土の厳しい自然と広大な大陸に象徴されるおおらかさ。権力と民衆。いくつかの対立軸は、家族の絆のなかにも影をおとしている、か。
 
 NHK教育テレビの講座テキスト。本書はロシアの芸術と表現。その重苦しい扉を理解し押し開いてくれる、手がかりとはなる、が。