秋の日  中原中也
磧づたひの並樹の陰に
秋は美し 女の瞼
泣きもいでなん 空の潤み
昔の馬の蹄の音よ

長の年月 疲れのために
国道いゆけば 秋は身に沁む
なんでもないてば なんでもないに
木履の音さへ 身に沁みる

陽は今 磧の半分に射し
流れる無形の筏は とほる
野原は向ふで伏せってゐるが
連れ立つ友の お道化た調子も
不思議に空気に溶け込んで
秋は案じる くちびる結んで