清水慶一著『ニッポン近代化遺産』
 「近代建築」という言葉には遅れて社会化されたが、文化財保存の世界に「近代化遺産」というジャンルが、台頭している。
 なぜ、「近代化遺産」なのか。それまでの「産業遺産」にかえて「近代化遺産」のすみわけができた要因を、著者は次のように提案する。
 「近代建築」は「芸術上価値が高い」が、「近代化遺産」は「歴史上価値が高いもの」とする。近代建築はヒトの集まる大都市で、著名な芸術家が衆目を意識して設計・施工される。
 「近代化遺産」は、人里はなれた場所、遠隔の地で機械・設備の外構たるの役割に発し、美的でも作品でもない。しかし、「建設された時代の雰囲気、建設に至る事情、建設に関わったさまざまな思い」にそれぞれ、物語があるという。

 そもそも、田邊朔郎「琵琶湖疎水」を読むために、この本に関心をもった。
 横須賀、琵琶湖疎水、桑名、四阪島銅山、木曽川電源開発など、場所はかわるが近代百年の産業発展の軌跡をたどることができる。

 最後に筆者は、近代化遺産が重視された地域整備や町づくりが「行われるであろうし、また、行われなければならない」と、する。
 投資、その機能は、地域にかかわったヒトの営為の記録であるからだろう。