おおとりの“契り”一曲でオセロ
ここ十年以上、紅白歌合戦を観ることがなかった。どういうわけか家にいて、ザッピングしていてたまたま平原綾香のジュピター。そのあと、腰を据えた。つまらねえなと思いながらラスト近くになった。北の蛍、津軽海峡と続き、そうか阿久悠が逝った年だな、と思っていたら五木ひろしの顔がアップに。タイトルが「契り」とあったので一瞬チャンネルを変えようと思ったが、阿久悠作詞と出たのでそのままに。涙止まらず。絶唱である。あんなに毛嫌いしていた五木ひろしの抒情に魂を奪われた。歌詞を聴いていてきっと阿久悠の絶筆だろうと思った。作詞家としての遺言なのだろうと確信した。webで調べたら1982年の仕事。意外なことに絶頂期の詞だった。ただの一度も耳にしたことが無かったように思えたのは五木ひろしの持ち歌だったからか。さっそくiTunesでダウンロード。2つのバージョンがあったが両方購入。聴き比べた。紅白のあの切迫した抒情はどこにも無かった。阿久悠に捧げたオマージュだったのだ。その思いが、テクニックに慢心しつまらない色気に終始してきた五木ひろしの何かを変えたのだと、思えた。永く異国に旅していた男がさすらいの果てに客船で故国に戻ろうとしている。微速度で近づいてくる故国の情景を前にした男の呟き…そんな心象が浮かぶ。そう考えると温暖化防止待ったなしの年となった2007年の締めにふさわしいなんとも不思議な歌となる。阿久悠、鬼才としかいいようがない。“美しい日本”という安倍前総理世迷い言も、この阿久悠の“契り”をテーマに掲げていたら、あるいは別な消息もあり得たか。平原綾香以降みていた限りでは“紅組”圧倒的に優勢だったが、おおとりの“契り”一曲でオセロとなった。それにしても1982年にこんな曲を書いていたとは。ふと気になってYouTubeをチェックしたら、あった。現在11ヒット。
http://www.youtube.com/watch?v=cTscxJ2QD5w