覚有情といきたいが…
むかしそんな事があった。何かのおりに破った。しばらくのあいだは連れ合いがその反古を天袋の奥に大切に保管していた。二度ほどの転居の際にも捨てずに来たようだが、俺自身はいちども手に取ることもなく過ぎた。ハードディスクの消失データと似ている。レスキューしてもほとんどが文字化けになったデータは、無残なほどに何も顕にすることがない。胸の内の記憶など、じつはあきれるほどに心もとないものなのだと、この年になってしみじみ納得している。あのこともこのことも、こころの傷など見るカゲもない。確かめられる縁がなければ、すべては無かったも同然。ほんとうに頭の中に消しゴムがあるのではと、がく然とさせられる。一週間余り前の「暴挙」は文字通りの暴挙だった。振り返って見えるのは霧の中の異星人のよう姿だけになってしまった。情けない。これから台風2つと並走で東北道を下る。古河へ。