2006 06/11 01:38
Category : 日記
そのひとは夕べの鐘のやるせない哀傷 風に吹かれる牡丹
-わがひとに、もしくは藤純子に-福島泰樹“晩秋挽歌”
吉祥寺から戻った渡辺にクルマの中で、これだけでも見ませんかと渡されたSONY-HDVの小さな液晶にあらわれた福島泰樹のアップの冒頭で絶叫していたのが、この歌だった。若いピアニスト川口の演奏を観たくてなんとか曼荼羅に同行したかったが、頭に入れないと間に合いそうもない資料を前にあきらめた。様子を渡辺から聞ければと思ってはいたが、ムービーをまわしてきてくれるとは予想していなかった。渡辺は、川口が出たシーンを見せてくれようとしたのだが、たまたま画面に映ったのが冒頭の一首だったのだ。晩秋挽歌に載った-わがひとに、もしくは藤純子に-その二の第一首。耳にした途端、稲妻にあったような気分になった。はじめて福島さんの歌集を買ったのが“晩秋挽歌”だった。まだ妻に寄食して川べりのアパートで暮らしていた二十代の真ん中の頃。塚本邦雄の“詞華栄頌”で福島泰樹を知ってから、はじめて手に入れた記念の一冊。色褪せた“詞華栄頌”には加藤賢明から届いた村上一郎の自死について書かれた75年3月31日の消印のあるハガキとカラカラに乾いたもみじが二葉はさまれていた。たまたまゆうべ、急に藤純子の緋牡丹博徒が観たくなり、DVDを二枚続けて観たばかりだった。いずれも加藤泰の撮ったもの。「花札勝負/昭和44年2月公開」と「お竜参上/昭和45年3月公開」。匂うように美しく凛々しく切なかった“お竜さん”をときどき無性に観たくなる。夕べが、そんな夜だった。どうということのない符合にすぎないとはいえ、感じるところもあり。
機動隊よそこに尿するなかれ昨日おれがオフェリア抱いたところ
はじめて読んだ福島泰樹の歌である。塚本邦雄の“詞華栄頌”74p「奔馬-福島泰樹」とタイトルのある2ページばかりのオマージュに、この歌が引かれていた。そして塚本はこんなふうにしめくくる。
「これらの作品の背後には哄笑がひびいている。世界の悲劇を己が悲劇として
ではなく己が小世界の悲喜劇を日本の悲劇であるかに深刻化して死ぬの生きる
のと騒ぐ事大主義など泰樹には全く無い。唇を噛んだ歯で酒瓶の栓を剥ぎ、
法華三昧会をするくらいの器量がある。その野放図な生命力と、昨日抱いた
オフェリアの屍骸に泰山木の一花置いて口笛と共に去る諧謔あってこその
[青春]であろう。あってほしい翹望が、それこそ私の泰樹を選んだ
不条理の源ではなかったか」
と。
-わがひとに、もしくは藤純子に-福島泰樹“晩秋挽歌”
吉祥寺から戻った渡辺にクルマの中で、これだけでも見ませんかと渡されたSONY-HDVの小さな液晶にあらわれた福島泰樹のアップの冒頭で絶叫していたのが、この歌だった。若いピアニスト川口の演奏を観たくてなんとか曼荼羅に同行したかったが、頭に入れないと間に合いそうもない資料を前にあきらめた。様子を渡辺から聞ければと思ってはいたが、ムービーをまわしてきてくれるとは予想していなかった。渡辺は、川口が出たシーンを見せてくれようとしたのだが、たまたま画面に映ったのが冒頭の一首だったのだ。晩秋挽歌に載った-わがひとに、もしくは藤純子に-その二の第一首。耳にした途端、稲妻にあったような気分になった。はじめて福島さんの歌集を買ったのが“晩秋挽歌”だった。まだ妻に寄食して川べりのアパートで暮らしていた二十代の真ん中の頃。塚本邦雄の“詞華栄頌”で福島泰樹を知ってから、はじめて手に入れた記念の一冊。色褪せた“詞華栄頌”には加藤賢明から届いた村上一郎の自死について書かれた75年3月31日の消印のあるハガキとカラカラに乾いたもみじが二葉はさまれていた。たまたまゆうべ、急に藤純子の緋牡丹博徒が観たくなり、DVDを二枚続けて観たばかりだった。いずれも加藤泰の撮ったもの。「花札勝負/昭和44年2月公開」と「お竜参上/昭和45年3月公開」。匂うように美しく凛々しく切なかった“お竜さん”をときどき無性に観たくなる。夕べが、そんな夜だった。どうということのない符合にすぎないとはいえ、感じるところもあり。
機動隊よそこに尿するなかれ昨日おれがオフェリア抱いたところ
はじめて読んだ福島泰樹の歌である。塚本邦雄の“詞華栄頌”74p「奔馬-福島泰樹」とタイトルのある2ページばかりのオマージュに、この歌が引かれていた。そして塚本はこんなふうにしめくくる。
「これらの作品の背後には哄笑がひびいている。世界の悲劇を己が悲劇として
ではなく己が小世界の悲喜劇を日本の悲劇であるかに深刻化して死ぬの生きる
のと騒ぐ事大主義など泰樹には全く無い。唇を噛んだ歯で酒瓶の栓を剥ぎ、
法華三昧会をするくらいの器量がある。その野放図な生命力と、昨日抱いた
オフェリアの屍骸に泰山木の一花置いて口笛と共に去る諧謔あってこその
[青春]であろう。あってほしい翹望が、それこそ私の泰樹を選んだ
不条理の源ではなかったか」
と。