4年前の走り書きから
   竜童の「夜霧のブルース」二時間繰り返し聴いていた。
   ウエブの闇の中をへめぐって、焦がれ続けた言葉が届いた。
   ざわめいていた胸の荒波をすーっと鎮めてくれる鎮魂の言葉。
   もし、この仕事が栄光に彩られるにふさわしいものであるなら、
   たったいま目にした言葉こそが、その証。

   二年余り前の春爛漫の某日、この企画と出会ったときに感じた、
   信じられないようなピュアなスピリッツ。
   活かすも殺すも、
   心映え一つで決まる刹那を百も二百も抱えて世紀を越えた。
   力尽きかけ、旗を巻こうと断念しかかった時、
   「もっと先へ行こう」と焦熱の塊になった人がいた。

   火をつけられた。
   瀬戸際で、誰も振り返ることはない。
   おまえの信じる世界を求めよと、
   まなじりけっして焚き付けた人に。

   檄は言葉で発せられることはなかった。
   問いつめるような一瞬の強いまなざしと、
   直後に必ずくる肩透かしのような気のそらせぶりで発せられた。

   おれはその信号を確かにとらえたかどうかを不明のままに、
   むじな森の夜の濃密さに身を任せた。
   それが、おれのむじな森だった。
   須賀川の奥の行き止まりのような
   山に築かれた夢の砦の真の意味だった。

   今夜、待ちに待った、かたちにならなかった檄が届いた。
   千の称賛にも万の美酒にも代えがたいその檄は
   数十行で書かれたものだ。
   どの一行もおれには共感と歓びに満ちたものだったが、
   とりわけこの一節が染みた。

      「はかない夢と情熱が確かに存在した場所として」

   むじなの森を自分にとって特別な場所とすることになりそうだ、
   そうあった。

   これで堰が切れた。
   このひとことが最大の称賛である。
   いつか誰かに、きっと、こう言ってもらいたかったのだ。

   夜も更けた。
   闇に紛れて書き飛ばす。
   志。
   二年前にひそかに根拠とし、誰にも言いようがなく、
   胸の底に沈めた言葉ひとつ。志。
   腐らせない歳月を残せるとしたら、
   最大の好機だと思えた瞬間に秘めた言葉が、
   志だった。
   潰えそうになったとき、おれのこころに檄を飛ばした人こそは、
   だからただ一人の同志であるはずである。
   同胞であるはずである。
   その確証となる檄をこの手にし、
   おれは自分の想いと直感が
   すべて当たっていたことを知ることができた。

   これで何も言うことなし。
   すべては晴れた空となる。
   ○に「過」ぎるの印半纏の埃を払い、
   これで過激な無頼渡世を送っていけるぞ。

    2001年7月10日午前4時44分記す