タンポポ異聞
以下、スーパーニッポニカ/小学館より引用

タンポポは人里や野にありふれた草だが、『万葉集』や平安文学に記述はない。『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918ころ)や『倭名類聚鈔(わみょうるいじゅしょう)』(934ころ)には、タンポポの漢名の蒲公英に、タナ(多奈、太奈)とフチナ(布知奈)の和名をあてる。タナは田菜で、タンポポの名は、タナがタンに転じて、それに花後種子の冠毛(綿毛)がほほける意味のホホが加わり、生じたとする見方がある(『倭訓栞(わくんのしおり)』『大言海』)。これに対し、タナはハハコグサかタビラコとの説もある。タンポポの花茎を短く切り、両端を裂いて、水に浸(つ)けると、放射状に両端が反り返り、鼓(つづみ)の形に似る。柳田国男(やなぎたくにお)や中村浩(ひろし)は、そのツヅミグサから鼓を打つ音(タンポンポン)と結び付いて、タンポポの名が成立したと説いた。タンポポの名は江戸時代の文献からみえ、いけ花にも使われた。『抛入花伝書(なげいればなでんしょ)』(1684)には、根を焦がさぬもののなかに含め、花色に黄と白をあげる。また、江戸時代には種子を播(ま)き、葉をゆがいて、ひたし物や和(あ)え物、汁の実などにして食べた。
セイヨウタンポポはフランスなどでは現在も野菜で、改良された品種がある。セイヨウタンポポは明治初期に札幌農学校のアメリカ人教師ブルックスが種子を導入し、それが北海道に広がった。さらに明治10年代には東京にもフランスから野菜として輸入された。中国では唐代にすでに催乳や健胃などの薬に使われている。タンポポの漢名の蒲公英は字音の似た僕公罌の転訛(てんか)とされ、罌(オウ)はケシで、発音が英の呉音のオウと同じく、傷つければ乳液が出ることもタンポポと共通する。ヨーロッパでは花や根を強肝、利尿、強壮などの薬用に、根を炒(い)って、粉にしたのをコーヒーの代用に使った。綿毛を、愛される・愛されないと、交互に吹いて、どちらが残るかで恋を占う遊びがヨーロッパにはある。中国では綿毛を詰めて枕(まくら)をつくった。