離れることが寂しい町は、そのひとにとってのふるさとなのだと思う。
   “熱球”
   重松清著/徳間書店 ★★★★★

   重松的再生物語。
   これで再生かどうかは別として、気持ちよく読了。
   仕事絡みで印象に残ったフレーズいくつか。

   
あなたは周防に帰って優柔不断になったわけじゃないんだな、と気づきました。優しくなったんだと思います。照れるでしょ。でも、優しくなったから、つらくなるってあるような気がします。優しいひとほど途方に暮れてたたずむことが多いんじゃないかな、って。だって、「優しい」という字は、ひとが憂うって書くんだものね。かく言う私も、引っ越しの荷造りをしながら、なんだか優しい気持ちで
日本のことを思っています。日本に帰って、去年の夏までの生活に戻っても、たぶんいろいろなことに対して優しくなれるような気がするのです。不思議です。ボストンに来たばかりの頃は、こっちの生活と比べるたびに日本の嫌なところを思いだしてムカムカしていたのに。

「帰る」せいなのかもしれません。家でもなんでもそうだけど、ひとは「帰ってくる」と優しくなるのでしょうか。

「帰る」ためには、いったん「出て行く」ことが必要です。
あなたは、周防から出て行ったから、帰ることができた。
私も、ボストンへ出て行ったから、日本に帰ることができる。そして、みんなで、東京に帰りましょう。周防にも「帰る」、東京にも「帰る」。

離れることが寂しい町は、そのひとにとってのふるさとなのだと思う。