宛先のない手紙を書いた。
下弦の月が出てますよ、という渡辺の電話で
北の窓を開けた。アロマホールの上にさえざえとした半月が昇っていた。

昼に、ミューズでもらってきたヤドランカのアルバムを繰り返し聴く。
井口さんは「予感」がおすすめと言っていたが、「いいじゃないの幸せならば」が今宵のおれにはよく合っている。

高空にあがった月光を浴びながらタバコをくわえ
ヘッドフォンのボリュームを最大にし、リピートを続けた。
一週間、いやもっと前からささくれだっていたいくつものトゲが溶けていくように、
確かに思えた。

いいじゃないの?
いいのである。

北にむかって開け放った窓からは
夜風にのってむじなの森の気配が満ちてくる。

目を閉じれば
湖に浮かんだ青いテントが灯影に揺れている。

ヒグラシやカエルの声もたしかに、聞こえてくる。

「屈服はいたしませぬ」という幻の幟を
あの館の上にかかげて二年が過ぎる。

つつがなしや?むじなの諸君。
跡地のぽち、花の道の夏草、森を飛ぶ綿毛、
虹の谷を染める夕日、鎌のような月、満月
そして巨大な虹…

もしあのとき映写機が最後まで回復しなかったら…

山田さんは、池田さんは、青柳さんは、菱沼さんは、高橋さんは、笛田さんは、佐藤君は、角木さんは、柳沼さんは、村上さんは、西田さんは、安藤さんは、そしてこのおれは
どんな夏を過ごし、どんなその後の二年間を迎えたのだろうか。

手元に酒のひとしずくもないのだが
あのむじなの森とジ・アース館と
どこで何をしているのかわからないみなさんに
わけもなく乾杯をしてみたい。

あの頃も、よく月を眺めながら
そんなことを書いていた。

みんな、元気か。
生きてるか。
愉しんでるか。
哀しいことはないか。

おれは今夜、
すこしだけセンチメンタルになってます。

みなさんと現場事務所で過ごした
あのときの6月末から7月初めの
二週間をふり返りながら
北の窓を開けて、古い唄を繰り返し聴いてます。
いいじゃないいいじゃないいいじゃないと呟いて…

愛を、こめて。

   T.M


2001年6月24日午後現場事務所二階
http://homepage.mac.com/torum_3/Voices/iMovieTheater204.html
外伝2特別篇「長いプロローグ」
http://homepage.mac.com/torum_3/iMovieTheater61.html