薦を割り、杯をかかげる。乾杯!!!
土砂降りの中、広尾のスタジオへ。
レガシー東北ロケの台風の日の初日を思い浮かべながら
首都高速を走った。
広報の熊谷さんと、最終的な原稿のツメ。
昨日、急きょ追加したカバームービー3タイトルと
チャプタームービー5タイトルのナレーションを録る。
さらにサブエピソード9の客船サービス用に追加した2タイトルの音楽をあてる。
一本になった堀本君との初仕事になった。

嵐の中で最後の仕上げをするというのも
なかなか風情があっていいですね、と言ったら
熊谷さんが胸の空くような笑顔を返した。

ちょうど丸十ヶ月。
7月末に港を出たおれの船旅が季節外れの台風の下で終わる。
窓をあければ、ほんとうに港が見えるところまでたどりついた。

熊谷さんは、このあと海外に転勤が決まっているという。
オープンまでにまだお目にかかるだろうが
いろいろな思いをこめて帰っていく熊谷さんに頭を下げた。
人に向かって、あんなに深く頭を下げたことはない。
着港と出港。
土砂降りの有栖川公園の緑は、
きのう午後、陸のさなかの港のように思えた。

まだ最後の紅一筋が残ってはいるが、
もう思い残すこともない。
ここまでは確かにたどりつくことができたのだ。
あとは泳いでも着ける。

任すべきところは任せ
正すべき所は妥協せず正す。
そのやりとりはあくまでジェントルに終始していた。
日本はまことにくだらない国のままだが
日本郵船という海運会社は
たしかにこの国を越えていた。
越えなければ残れない…
そういう世界と社会があるのだな、
そんなふうに感じることができたことは望外。
たかが仕事、も悪くないじゃねえか。そう思う。

静謐でありながら雄々しく凛々しく生きつづける博物館…
そういうものをつくることができた、と思う。

まず、己を褒めておきたい。
そして投げ出さずに取り組んだすべてのスタッフ達を褒めたい。

一月遅れの五月晴れを六月初日の夕に眺めながら
胸の中で薦を割る。祝杯である。

遠くから汽笛も聞こえている。
祝砲であろう。