はじめて海に出あったとしよう
たとえばぼくは深い森のある山あいに暮らしている。
生まれてからまだいちども海というものをみたことがない。
ある日、話に聞く、海というものが
どうしても見たくなり、
いくつもの山や丘や川や平野を越えて海に向かった。
季節はきっと、春。
桜が咲いて、大地が緑になって
空に鳥たちが飛びかい
月がしみじみときれいな夜がつづくころ。
ぼくははじめて見る海に向かったのだ。

そして、ついに
海と出会う。

そのときぼくはどんなコトバをもらすのだろうか。


最初に感じるのはきっと際限のない明るさ
同時にまぶたを突き刺すようなまぶしさ
明るさとまぶしさに目がなれた頃
はてしない水平線を前に無限の広さを感じ
そして最後にわけもなくうれしくなって笑いをこぼす。

自分の中にありつづける海のイメージは
そういうふうなものらしい。
そして、その海は
つねにひらがなで飾られている。


なんだかガキのようだが。
そんな気がしている。