…いつも不幸だった?
…いつも不幸だった?
…いつも不幸だった。
…どれぐらい?どれぐらい不幸だった?死ぬほど不幸だった?
…そりゃあ、いつも、ものすごく不幸だった。
幸福に輝いている太郎ちゃんが応えます。
…でも死ななかったじゃない!オメオメとこうして生きて帰ってきたじゃない!
…だって、もう一度ようこちゃんに会って…
幸福に光り輝く顔に一瞬暗いものが走りました。
…もう一度ようこちゃんに会って、ほんとうに絶望すべきなのかどうかを確かめようと思ってた。



もちろんこの前後があり、さらにはそこにいたる15年前の出来事と、さらにそれ以前の長い時間があるのだが。
廃屋のような、二人が最後に過ごした山荘での再会のやりとりのピークが、
この満を持した
「いつも不幸だった?」
「いつも不幸だった」短いフレーズに置かれる。

これほど哀切なはりさけるような美しさをたたえた会話は、男には描けねえだろうな。永遠に。

読み返してみたが
ほかにどんな描きようがあるのか
どんな表現上のリアリティが在りうるのか
想像できない。
書かれた瞬間に《古典》となった、
そういう類いの表出。
ほんと恐れ入る。