《本格小説》下巻読了。圧倒された。
仕事の合間に下巻を読んだ。
243ページで15年ぶりに廃屋になった山荘で、
ようこと太郎が再会し、349ページでようこが死ぬまでの100ページの展開は、まったく予想しないものだった。ここからようこが雅之の元から逃げ出すまでの60ページの至福の時間は、
日本の作家の想像力と体力でではとうてい不可能と思えるイメージあり。
野沢尚がシナリオ《恋人たち》でたどり着こうと試みた「解体と再生」を、水沼はさらに複雑と深みを加え、その先の世界をやすやすと描き出す。
しょせんはドラマと小説の差といえばそれまでだが、ここもおどろいた。

さらに失踪後にようこが雅之と太郎に看取られて死ぬまでの46ページ。
たった46ページを読むのに2時間かかった。あふれる涙で文字が読めない。
小説を読んでこんなに泣いたのは、いつ以来のことかか。

感動という言葉とも少し違う気がする。
誰かの、自分ではない誰かの《人生》を
確かに知ったという思い。そういう希有な体験。

一生の間に、何冊かは出会えるかもしれない
そういう物語。ロマン。

水沼の《本格小説》は、21世紀の1冊目の古典文学なのかもしれない。
文字通りの本格。