夏至を祝う。
広尾地下。午前1時20分。アップ。

最後に樹上から最初の一歩を踏み出す
ルーシーの足音を録って入れた。
足音の主はミスター武田。

最後の最後に
250万年続くことになる人類の最初の一歩の音の仕込みが
この仕事の大ラスとなったことは喜ばしい。

示唆的である。

テープ戻しをしたら山岡君を送り届けながら帰る。

酒が飲めれば、このまま繰り出したいところだが
体の芯まで疲れがにじみ出してもいるから
まっすぐ帰ろう。


久しぶりに福島さんの「風に献ず」から引く。

  《十年を再び生きることをまた、くわだてんとす風よ情は》

ちょっとハイになっている。


十二時間にわたるMAVの間、なぜなのか考えつづけ、その答えがふいに見つかった。


正解のない世界。


これが解答。
ただ一つの答えである。


ルーシーは
その一歩を踏み出した瞬間から生涯を終えるまで
ただの一歩も正解としての歩みはなかったはず。

だから彼女は、
「ここではないどこかへ」と歩き続けられたのだ。

そのはるかな
気の遠くなるような夜と昼の堆積の上に今夜がある。

大げさに言えば、そういうことなのだ。

きっと。


では、祝杯をかかげよう。
誰よりもおれ自身に向かって
そしていとおしいすべての人に向けて。


夏至の宵に
乾杯。