《世界の終わり、あるいは始まり》★★★★★
「世界の終わり、あるいは始まり」歌野晶午著/角川書店刊

読み進むことがまことに辛い小説である。
共感できることはどこにもない。
にもかかわらず、小説らしい小説。
出版社は販売戦略でミステリーとジャンル分けしているが、
とてもおさまりきれない。

途中で歌野の意図に気づかされてからは
答えのない迷宮にどっぷりとはいりこんだ。
そして読了後も脱け出せなかった。

これは、怖い小説である。
人間が抱え込む「明るい暗部」をめくり続けていくと
どんな貌が現れてくるのかという
あるいは現れることはあるのか、という
できれば避けて通りたい問いかけだけで成立する
地雷のような物語。

エピローグの「パンドラの箱」のエピソードと
父と息子のキャッチボールが
とりあえずの救いとして描かれてはいるが、
これが歌野の本意なのかどうか。

 
  『世界の始まりはカオスだったという。
   カオスは混とんとは違う。そもそもは巨大な空間を意味するのであり、
   《空》は空虚ということではなく、
   あらゆる可能性を秘めた無の状態をいう。
   そう、今日のこの、まっさらな青空のようなものだ。
    白球が空から落ちてくる。それは私の未来でもある』