「オメルタ」マリオ・プーヅォは★★
「オメルタ」マリオ・プーヅォ/早川書房/加賀山卓朗訳

「ゴッドファーザー」「ラスト・ドン」と続くプーヅォのマフィア三部作の三作目。
遺作となった作品だが、さすがに哀しいほどに力のなさで、長いシノプシスを読まされているような気にさせられたまま読了した。
一ノ瀬訳で「ゴッドファーザー」を読んだのが1972年。プーヅォの小説はついにこの「ゴッドファーザー」を越えることはなかった。映画もまた衝撃的だったが、彼の小説「ゴッドファーザー」もすぐれた作品だった。そんなことを思い返しながら読み進み、ああアメリカのマフィア社会もすっかりエスタブリッシュメントされちゃったんだな、とホッとするような惜しいような不思議な感想を持たされた。
アメリカだけではない。この国のアンダーワールドももはやその本質の大部分が闇ではなく光の中に堂々と身を晒している。R・ホワイテイングの「アンダーザワールド」など、だからよくできたおとぎ話にすぎない。
暗部はすでに威風堂々と光を浴びて歩を進めている。それが東京の、そしてニューヨークの、世界の多くの都市部の現実であり行く末である。
力尽きたようなプーヅォの遺作だが、そのことだけは読み取れるように思える。
ぼくはプーヅォがとても好きだった。というよりも一ノ瀬の訳した小説「ゴッドファーザー」が好きだった。
加賀山卓朗の訳はあきれるほどへたくそだが、これは彼の日本語能力の貧困さからくるのか、作家に対する愛の不足からくるのか。清水にチャンドラーを訳させた老舗早川書房ではないか、これでは伝統が泣くぞ。