号外である
10月31日夜に「水の惑星」メーリングリストに送った撮影便りの前書き部分から。

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号外『待てば海路の…山路もあり』號 

10月31日 朝から秋晴れ。スタッフは午前六時半にホテルを出発。渓谷の「もみじ山」撮影ポイントでセッティング開始。
手のあいた順におなじみのコンビニお握りで腹ごしらえ。録音部は川上の音取材をすすめ、「もみじ山」班は、煙の具合などをチェック。午前九時、ホテルで衣装を着替えた出演者六人合流。「もみじ山」のリハーサル開始。
今年八十歳になる元磐梯町議会議長の佐藤一郎さんと猪苗代町町会議員の武藤勲さんが場を大いに盛り上げてくれている
うちに狙いの時間となる。煙の状態、風向き、落ち葉の三つの要素を同時に満たすためにテイクを重ねる。
もう一度だけチャレンジしたらカメラポジションを変えようと五度目のテイクの、そのときである。
神風が吹いた。渓谷の両側の斜面の木々の葉がいっせいに散り始めたのである。秋の美しい陽射しの中を、ともに
「もみじ山」を愉しむように、数えきれない枯れ葉が峡谷を漂った。広大な谷を埋め尽くすように乱舞していく枯れ葉。
もっと小さな規模での落葉を観たことはあったが、これだけの空間でいっせいに散っていく枯れ葉を体験したのは、
はじめてのことである。あまりの美しさに眼を点にした撮影監督と演出は同時に「もう一回」と叫んだ。
ロケハンとロケ本番を繰り返しながら延期を繰り返し、これが欲しいと願ったその光景をみごとにゲット。

杖を手に、首を横に振り続けた撮影監督が、はじめてこぼれるような笑顔になった。

長嶋が彩った二十世紀最後の秋が、新しい世紀に向けて美しく散っていくあで姿を、
映像チームがみごと手中におさめました。

大言壮語…してみるものであります。

この号外はその半日のドキュメントと、なすすべもなく過ぎた前日の記録である。