緒戦大勝。
その浦の名は、松川。
相馬の海岸とは、狭い砂浜と二車線の道路、防風林とを隔てて接している。
海苔の養殖の細い杭が朽ち果てた水中の枝のような奇妙なオブジェをかたちづくり、
岸の砂中にはとりきれないほどのアサリが生息しているという。
ほっき貝や近海の漁を業とする漁船が浦のなかのいくつかの港に停泊している。
相馬の海から昇った太陽は、浦の対岸の低く連なった山々に沈む。
9時30分に現場に入り、午後1時と日没直後の二回のシュートチャンスを待って、
カメラセッティング後、スタンバイ。
ひなびた日本の海岸の原型のような光景を前に、キャンバス地の椅子に座って
日暮れまで動かず。
この日のためにとっておいた金庸の「神雕剣侠」第一巻。

狙いたがわず、絶好の秋晴れが日暮れまで。
渚とも湖とも異なる漁船の航跡が不思議な波立ちをつくってくれた。

自分のこれまでの人生で、
こんなふうにひとところにとどまってまったく同じ光景を眺めていたのは
たぶんはじめのことだと思う。
奇妙さと落ち着きとが同時に存在する、いままでにない体験をした。

午後5時30分。日没後の一瞬を撮り終わり、現場で解散。
霊山峠を抜けるときは深い闇になっていた。
午後7時30分、福島西のランプから東北道に上がる寸前に、
相馬の方から巨大な月が地平線に。

その月の出と並走し帰京。


まずは、秋の緒戦勝利である。