コスモス騒動
あやうく丸裸にされそうになったコスモスについての顛末を「水の惑星」のメーリングに送ったもの。

その宿は宝の山、磐梯山のすぐ麓、夏の盛りにはひまわりが咲きほこり、
秋にかけてコスモスが乱れ咲く牧草地から、
ほんの少し林を分け入ったところにひっそりと建っています。
押立温泉、住吉館。これが初秋の水の惑星撮影チームが
エンディング用のコスモスを撮影するために泊まる宿。
押立と書いて「おったて」と読むとか。
早朝、東京を発って磐梯のサービスエリアで合流し、
柳津の只見川流域を撮影する予定でしたが、
昨日までの雨と風の影響で田の稲穂がすべて倒れてしまい、
ロケハンで想定した「大河と稔り」シーンとしては成立しそうもないので、中止を決定。
猪苗代に引き返し、明朝撮影を予定しているコスモスの群生地のチェックに向かいました。

9月1日にメインスタッフでロケハンしたときには70%ほどの開花で、
そこから7日本番というスケジュールを設定したのですが、
ここ数日の体温以上の暑さとその直後の冷え込みのせいか、予想以上に
成育が早まったようで、花の色はいいのですが、茎や葉の部分の緑が
やや色あせてました。
カメラ前のコスモスを勢いの良いものにするために、町役場に申請し、
ほかの場所のコスモスを少し移植することに決定。
制作スタッフは、いまその準備で町に植木道具を仕入れに行ってます。
先日、高見澤さんから報告があったように、いわゆるミンミン蝉がしきりに鳴いています。
ミンミン蝉の鳴き声を聞きながらトンボがのんびりと飛んでいる。東京や関東の晩夏とは、
またちがった趣がありました。

明朝の撮影プランを検討中のスタッフの目のはしに一台のトラクターが
登場。いきなり目の前のコスモスを刈りはじめたので、ぼくたちは一瞬
石になりました。小間あって気を取り戻した制作スタッフがコスモス畑を迂回して
トラクターに駆け寄って尋ねたところ、
今日はひまだったから刈り入れでもしようとやってきたという話。
町の方に申請書を提出し、撮影がすむまでコスモスの刈り取りを
待ってもらうようにしていたのですが、仕事熱心な職員が自発的に刈り取りを
すませようとしたらしい…

いやほんとうにあせりました。
もし、柳津の稲穂が倒れていなかったら、撮影チームはまっすぐ柳津の
現場に向かい、夕方まで撮影し、すっかり満足して押立温泉に投宿、
磐梯山の産直温泉につかり鋭気を養って早寝、翌朝六時にコスモスの草原に向かい、
そこで裸になったコスモス畑と対面、となったわけです。
思い返すたびに冷や汗が出ます。

あんまり冷や汗が出るので、露天風呂に行ったのですが、
ここはみごとだった。
山の斜面につくってあって、ブナ林に囲まれた岩風呂。
ちよっと想像してください。山の斜面の露天風呂で、
あたり一帯はブナ林のあざやかな緑におおわれている。
その梢のあいだから初秋の少し低くなった太陽が光をこぼしている。
水面には緑が映りこんでゆらゆらと揺れている。
こういう雄大な露天風呂にははじめてお目にかかった気がします。
活火山磐梯山のすぐ麓の水源林の中の露天風呂。

大昔から、このあたりに人が住みつき、暮らしてきたことの理由が
なんとなくわかる気がしました。
磐梯山が、あるいは噴火するのかも知れませんが、
そうなっても人はまたここで暮らしていくのだろうな、
そんなふうに思えました。

宝の山、磐梯山の山麓に咲く、20世紀最後のコスモス。
明朝の撮影が楽しみです。

仕事熱心な職員の方が、明日はトラクターではなく
別な方面にその熱意が向かわれんことを、
みなさんもお祈りくださいね。

外は、虫の声が高くなってきました。
明日に備えて、また温泉につかってまいります。