世界で一番バカな旅人
(これは、「フルーツバスケット(花とゆめコミック、高屋奈月)」さんの漫画の中に出てくるお話をアレンジして私なりに書いてみました。残酷な表現もありますので、お読みになる方はご注意くださいませ。)

ある所に、バカだと言われてる旅人がいました。

その旅人がどうしてバカだと言われてるかと言うと、すぐに人を信用して、いつも騙されているからです。

旅をしていて、街の人達からお金が無いと言われてはお金をあげて、着る物が無いと言われては自分の服を渡し、食べ物が無いと言われると自分の食べ物を分けてあげていました。

でも、街の人達は旅人の事をバカだと思っていますから、いろいろと嘘をついてはお金や服や食べ物を騙しとっていました。

旅人は疑う事を知らない人ですから、物をあげて「これで助かります」と礼を言われると、これでその人が助かるのだと喜び、ポロポロ涙を零しては「お幸せに、お幸せに」とその人の幸せを願うのでした。

そうこうしている内に、旅人は服も靴もお金も食べ物もなくなって裸になってしまいました。

さすがに裸では街を歩くのが恥ずかしいので、旅人は人のいない森の中を旅する事にしました。

ところが、森にはいろいろな魔物達が住んでいました。

魔物達も旅人がバカな事を知ると、旅人の体を食べてしまおうと、言葉巧みに騙していきました。

旅人は、やはり疑う事を知らずに、指を一本、腕を一本、足を一本と言う具合に魔物にあげて、食べられて行きました。

そして、とうとう旅人は頭だけになりましたが、それでも旅を続けていきました。

ある日、旅人は最後の魔物に出会いました。

魔物はやはり旅人を騙して、旅人の目を騙し取りました。

魔物は旅人の目を食べてしまうと、「ありがとう助かりました、お礼に贈り物をします」と言って紙切れを置いて行きました。

その紙切れには、「バカ」と一言だけが書いてありました。

しかし、旅人は目が無いので見る事ができません。

それでも、旅人はポロポロ泣きながら「ありがとう、ありがとう、贈り物を貰ったのは初めてです、うれしい、うれしい、本当にありがとう」と言っては無い目から涙を流して喜びました。

やがて、身体の弱った旅人はそのまま亡くなってしまいました。

旅人はバカだったかも知れません。

しかし・・・いっぱい騙されて、いろいろな物を取られましたが、心はいつも温かくて幸福で満ちていました。

やがて、亡くなった旅人のたましいは、天使達に連れられて神様の所に行き、光り輝く天使に生まれ変わりました。

そして・・・やはり、どこかで暖かい心を贈る天使として旅を続けているのです。

贈る心・・・贈られる心・・・その幸せな暖かさを伝える天使として。