春狂言2012
書くのが遅くなったが、先日の21日に、大阪の大槻能楽堂に、京都の大蔵流狂言家の茂山家の「春狂言2012」を見に行っていた。

毎年、春に東京と大阪で開かれる茂山家の狂言会であり、私も毎年楽しみにしているのだが、昨年はチケットを買っていながら公演日を度忘れしていて、気がついたのは当日の公演が終わった頃で、自分の迂闊さに凹んでしまったんだよね。

今年はきっちり確認して昨年の分まで楽しむつもりで行ってきた。

茂山家は狂言会でもトップクラスの人気があり、どの公演でもほぼ満席であり、しかも観客の7割くらいは女性である、若い女性ファンも多いんだよね。



○お話:茂山 逸平

茂山逸平さんの軽妙なお話で本日の狂言の曲目解説や裏話で盛り上がる。


○「麻生」(あそう)

麻生某:茂山 宗彦
藤六:茂山千三郎
下六:茂山  茂
烏帽子屋:丸石やすし

信濃国の麻生の何某は、訴訟のために長いこと京に滞在していたが、訴訟も有利に解決した。

召使の藤六と下六を呼び出すとともに喜んで、明日は元旦だが近いうちに帰国しようという。

明日が元旦なので出仕したいが、服装が整わないことを心配すると、なんと二人の召使がすでに小袖上下と烏帽子を用意していると聞き大いに喜ぶ麻生の何某であった。

下六はまだ烏帽子を烏帽子屋に取りに行っていないというので、取りに行かせる。

その間に、藤六が覚えたばかりだという烏帽子髪を主人に結ってやるのだが、馴れない髪結いと主人がじっとしていないのでに四苦八苦している。

一方、下六は烏帽子屋で烏帽子を受け取ったものの、主人のいる宿の場所を忘れてしまう。

そこへ藤六が迎えに来るが、藤六も方向がわからない。

そこで二人は、「信濃の国の住人、麻生殿の身内に、藤六と下六が主の宿を忘れ、囃子物をしていく…」を囃しながら宿を訪ね歩くのだが・・・。



この狂言は9年ぶりの公演だそうでなかなか珍しい曲だそうである。

それと言うのも劇中でじっさいに主人の髪を結う場面が一つの見せ場であるのだが、昔と違って実際の髪の毛でチョンマゲに髪を結うのはできないので、鬘を被って、その鬘でマゲを結う事になるのである。

狂言は狂言師の自頭でやるのが基本であるが、唯一鬘を被ってやるのがこの狂言なのだそうだ。



○「朝比奈」(あさひな)

閻魔王:茂山 正邦
朝比奈:茂山七五三
地謡:松本 薫・茂山 茂・井口 竜也・山下 守之


娑婆の人々が利口になり、仏道に帰依して極楽へぞろぞろと行ってしまうので、地獄はガラ空きの不況となり、地獄の飢えに困った閻魔大王は自ら六道の辻に立ち、罪人を捕えて地獄に攻め落とそうと待ち構える。

そこへ名にし負う鎌倉武士の朝比奈三郎義秀がやって来たので、閻魔は地獄へ落とそうと責め立てるが、朝比奈はビクともせず、逆に閻魔を手玉にとって投げ飛ばす。

驚いた閻魔、相手が朝比奈と知って、和田合戦の様子を語れと所望、応じた朝比奈の手柄話が佳境に入るにつれ、又々、手玉にとられ散々な目に会った閻魔は、ついに朝比奈の七つ道具を持たされた揚句、朝比奈を極楽浄土へと案内するはめになる。


この狂言は豪傑の朝比奈を何とか地獄へ連れて行こうとする閻魔大王の涙ぐましい奮闘振りが可笑しい狂言で、そもそも亡者が極楽にばかり行って地獄が廃れてくると、閻魔大王自らが亡者をスカウトに出てくるという発想から面白いね。



○「濯ぎ川」(すすぎがわ)

夫:茂山 童司
女房:茂山 逸平
姑:茂山あきら


気の弱い婿養子の夫は、いつも妻と姑にこき使われていた。

今日も川で洗濯をしていると、妻がやってきて早く洗濯を終わらせて別の用事をしろと言われる。

しぶしぶやっていると、今度は姑がやってきて、早く終わらせて自分の用事もしろと別の用事を言いつけられてしまう。

用事が多すぎると言い訳すると、杖で打たれそうになるので、しぶしぶ用事を引き受ける。

そうして洗濯を続けていると、再び妻が来て早く済ませて別の仕事をしろと叱る。

夫が、あまりに仕事が多すぎて覚えられないと言うと、それでは紙にしなければいけない仕事を箇条書きにしてもらう。

紙に書いてある事だけをすれば良いのかと聞くと、よけいな事はしないで紙に書いてあることだけをすれば良いと言う。

夫が川で妻の小袖の洗濯を続けると、小袖を川に流してしまう。

妻は、自分の小袖が川に流されるので、取ろうとして川に落ち、自分が流されそうになってしまう。

姑は、早く妻を助けるように夫に言うが、夫は先ほど書かれた仕事の紙を取り出すと、川から妻を助けるのは書いてないのでやらなくても良いと反論する。

姑は、そんなことを言っている場合ではない、何とか妻を助けてくれと夫に詫びて頼みこむ。

夫は、文句を言いながらも、川に落ちている妻を助けて川から引き上げる。

すると妻は、自分が川に流されそうになっているのに、助けようとしなかったと怒り、夫を追い掛け回す。


これは新作と言ってよい狂言で、昭和28年に作:飯沢匡 演出:武智鉄二で初演されてから、今ではすっかり茂山家の演目として知られている。

この狂言では婿の男が妻や姑に頭が上がらない弱さが爆笑を誘う面白い狂言で、私も何度か見た狂言であるが、これまでは夫を茂山七五三さん、姑を茂山千三郎さんが演じる事が多く七五三さんの気の弱そうな中年の婿に、千三郎さんの姑がすごく良くて印象が強かった。

今回は、いつもは嫁を演じる事の多い茂山童司さんが婿役で気の優しそうな婿さんでなかなか新鮮で良かったように思う。

狂言に出てくる女性は「わわしい女」と言って気も腕力も強くて男にも負けていない逞しい女性が多いのだが、今にも通じる面白さなので、狂言を見に来られた女性にも身近な演目なので、場内が爆笑と言っていい笑いに包まれていた。


こうして昨年の悔しさを晴らすようにたっぷり狂言を楽しんで、先行発売の夏の納涼狂言祭の前売りも買ってしまったよ。