秋刀魚
真っ黒い空に鳥達がぱたぱた慌てて何処かへ逃げていく。
白鷺が、雀が、カラスが、カモメが、何処かへ消えていく。

両隣りの犬も猫も雨が降りそうな空模様を知っているのか、
飼い主と急ぎ足で自宅に帰ってきた。

今夜は、何にしようかと思った時、そうだ、秋刀魚にしよう。
急に秋刀魚が食べたくなった。

一年中、お店で売っている秋刀魚を百円で食べきれないほど
嵩が有って庶民の味だと思っていた。

活きの良い秋刀魚は三倍に、冷凍秋刀魚は二倍に値が上がり、
安いお魚から普通の値段のお魚と同じクラスになった。

ねえ秋刀魚、お前を食べて悪いけれど、お刺身、焼き魚、煮魚、
蒲焼と美味しいのよ。

安い秋刀魚と軽蔑しながら食べていたが、味は何時もと変わらぬ味。
秋刀魚の気持ちが変わらないから味も変わらない。

それに引き換え、人間の気持ちはくるくる変わり嘘をつき、
体裁ばかりを繕っている。

今夜は冷たい雨が静かに降って半袖では肌寒い。
文化祭も近づいて昼と夜の温度差が大きい。