あの日の節分
あの時の節分はもっと冷たい風が吹く寒い日だった。
福は~内! 鬼~外!内気な父が照れながら豆をまいていた。

「今度は、お父さんが鬼になってね。」と交代で節分の豆をまき、
大はしゃぎをした想い出がある。あの頃の私は、まだ幼かった。

母は、台所で手早に太巻きを作ってくれ、吉方位(恵方)を向いて
「お母さんの太巻きは美味しいね。」あの幼い頃は幸せだった。

その後中学時代から地獄のような生活が家族を待っていたとは、
誰も知る由も無かった。

節分どころか、春夏秋冬の季節も関係なく働くだけの日々が続き、
会社の帰りに空腹で、名も知らぬ木の上に積もった綺麗な雪を食べていた。

真っ白な綿みたいな雪がとっても美味しかった。
そして、今日は、太巻きを作る簾もないのでラップに巻いて

冷蔵庫の残り物を入れて巻いて食べる事にした。
隣の部屋の方の迷惑にならないように、福は内! 鬼は外!

小さな声で一回だけ言った。温かいご飯が食べられ、
暖かいお布団で眠れ、何て幸せなんだろう。

お父さん、お母さん、有難う。私はとても幸せよ。