2003年12月の記事


「たとえば」
      たとえば
      医者の要らない世界
     警察の要らない日常
     軍隊のいらない国を
     想像してみる

     病気のない
     犯罪の無い
     侵略の無い 次元

     たとえば
     医者の居なかった世紀
     警察の存在しなかった場所
     軍隊を必要としない時代
     を想像してみる

     病気は自然の摂理
     犯罪は生きる道を失い
     侵略は弱肉強食

     たとえば
     あなたと出会わなかった
     わたしを想像してみる

        わたしはあなたにとって
        どんな存在だったのだろう
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「寒い朝」
凍れる息も輝いて
晴れた朝を踏みしめる

育ち過ぎたホウレンソウの
軟体動物のような固まり

霜柱は天上を仰ぐ神殿
木々は羽衣をまとう
天女たち

朝の光は
日常を凍らせて
異空の情景を創り上げる
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「葬送」
80年近い年月を
あっけなく終らせてしまったなどど
言う事はすまい

死出の旅を始めるまでの
長の年月を
たったひとことで
片付けてしまうことはすまい

名も無きままの
一井の人のまま
荼毘にふされることを
嘆くまい

あなたが あなたらしく
逝ったことを
幸いとしよう

豊な人生であったことを
偲ぼう

残された者が
やすらかであることを祈ろう

―――――合掌
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「波頭をたたく風」
日本海の荒波は
吹く風の筆跡

真夜中の雷鳴と
窓をたたく
乾いたリズムは
吹く風の言霊

冬の海の蒼さは
永遠の祈り
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「語り継がれる物語」
眠る幼子のそばに
兵士が立つ
「ここで、守っているから
ゆっくりおやすみ」
幼子が問う
「何がやってくるの」
兵士は答える
「おまえが怖がる必要はないのだよ。
わたしが守っているのだから」

幼子はやがておとなになり、
兵士は年老いた。
歩きつかれた兵士のそばに
青年が立つ。
「ゆっくり、休んでおくれ。
わたしが、見守っているから」
息を引き取る老兵士を弔い
青年は再び、歩みだす。

妻を娶り、子をなし
青年は眠る母子のそばに立つ。
「ゆっくりおやすみ。ここで、守っているから」
青年は兵士となり
守るべきものを得て、
はじめて老兵士が見ていたものを
見た。
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「落涙」
悲しみは蒼く
底の見えない淵に
沈む

かき乱す波紋は
底の深さを惑わせる

誰が沈む悲しみを
すくい上げるのだ

涙を流すだけでは
淵は深くなるばかりだというのに
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「書店」
入り口に立ち止まると
焦燥感と従属感と
深い哀しみに襲われる

人類のあらゆる言語を
空間に押し込め
事足りるような自己満足

不快も快感も
喜怒哀楽も
文字に閉じ込めてしまったのは
人類の勝利なのか

善悪も虚無も全てを
肯定し否定し
留まる事のない洪水は
防波堤さえ呑みこんでしまう

流れてきた小さなひとつを
手にし
レジへ向うわたし
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「モジュール」
他人の不幸をものさしに
自分の歯車まわしてみる

合わせ鏡のように
重なる歯並び
そ知らぬふりして
回り続ける
寸分と狂わぬ
カラクリ時計の歯車の如く
いつのまにやら
外れた螺子は
行き場を失い
傲慢な歯車は
不協和音を奏で始める

モジュール モジュラー
怪獣になる
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「灯火」
星の光をうばったように
都会がきらめいて師走

川の流れは沈黙して冬
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「音階」
銅鑼から始まる
麗容なる言霊
自ら赴く
ファイナルステージ
想蘊を踏む
羅針盤は彼の地を指し
静かなる行進は
動乱を呑み込み
連打する銅鑼の響きは
民族の調べ
ファシズムは
存在すべからず
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