「意味」示す<珠玉の価値> 岩谷昇平著『上関浪漫 夢の交差点・上関』
 「意味」示す<珠玉の価値> 岩谷昇平著『上関浪漫 夢の交差点・上関』。

 中扉の一枚、その説明に注目しておきたい。「二つの太陽」に「上関海峡の日の出」と解説。
 その意味を「やすらぎとぬくもりのある住まい・まちづくり」「やわらかに海と陸(おか)とが出会う町」の象徴と位置づける。



 「二つの太陽」は、別に二つの太陽がこのマチを照射すのではない。瀬戸内の海峡、交通の要所に昇る日の出が<太陽、二つに写る現象>をうみだす、<自然の景観>。
 そこに、「やわらかに海と陸(おか)とが出会う」と読み解き、「やすらぎとぬくもりのある住まい・まち」の<目標を提示し、語りかける>ところが、注目をあつめる。

 「戎町にて」は、町の路地を幼稚園児とみてとれる3人の女性園児が通園する景。
 説明に「子どもたちの歓声の聞こえる路地」と読み解いている。
 1)掲載の写真は記録、
 2)「子どもたちの歓声の聞こえる路地」は「地域の魅力」
 3)記載はされていないが、「次世代をになう後継者が、シッカリ存在」。
 そう、言い表しているようで、まことに力強い。そう見ていくと、この写真集には老人、高齢者が登場しない。

 春・夏・秋・冬。上関の景観が80枚の写真と1点の地図で綴られている。
 春は「桜」、夏は「若者の集う町」、秋は「島の男の勇敢な祭り」、冬にむかっては「夕日のきれいな町『上関』」と、四季を示す。
 夕日は、都合22点の撮影。海峡と島のマチだけに、夕日のポイントも9点。
 4)上関大橋、5)戸津=へつ沖、6)上関海峡、7)上関漁協前、8)白井田=しらいだ、9)亀岩灯台、10)笠戸島、11)叶島、12)小祝島と多彩。

 自然現象.祭りでにぎわい、幼稚園児の歓声の聞こえる路地、白壁の家に格子の家屋。

 注目しておきたい。
 写真は記録でも、撮影する<問題意識>、つまり地域への愛情。
 そこに、「なぜ注目したのか」の説明は、「魅力の提示」ということ。
 しかし「魅力」のみでは、そのうちに<慣れ>が生じると、<飽き>がきて、振り向きもしなくなる。そうではあるましか。

 ところがそこに、総じて「やわらかに海と陸(おか)とが出会う」と、住民の<感性>を差しはさむことで「やすらぎとぬくもりのある」とする。
 だれでもが「住まい」、そして「まちづくり」に「取り組む姿」を、ホウフツとさせてくれる。

 最後に本書は、上関町住宅マスタープラン委員会から出版されている。
 本書の解説では、著者が本書を出版したのは52歳の時。40歳でこのマチの信用金庫支店長に、赴任。
 「上関町の人々の心のあたたかさ、景色のすばらしさ、そして夕日の美しさに魅せられて」と、撮影に体した動機を記載する。

 人口は4100人ほどで、高齢化率は56%を超えている。しかも祝島、八島、長島と島嶼=とうしょをむすぶ航路を維持する。
 思うことは、<地域への思い入れ>。ある意味、西日本ならではの深い、地域への愛情があふれる一書。