袖吹き返す
 「日めくり万葉集」。17日の採歌は「采女の 袖吹き返す 明日香風 都を遠み いたづらに吹く」(志貴皇子=巻1・51)。

 「袖吹き返す」は、「袖口から入り込んだ風が、袖を介して胸に吹き抜けてゆくサマ」を言うらしい。温帯の初夏。そうした気分を気持ちよく体感できる季節が、確かにある。

 亜寒帯の北海道東部では、そうした季節は短い。袖を介した風が胸に吹きこめば、心臓も止まりそうな冬。風がふきぬける服装よりは、袖口をキッチリとめて、寒風が肌に接するのを防ぐ。情緒より、命。

 体は進化したというか、順応したというか。温帯から移住した祖先の驚きの寒さも、それはそれで「驚き」を脱して、「普通」と子孫は、受け止める。

 しかし、詩歌を聴いて、日本の季節を考える。