オッペルと象
ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに、十一日の月を見て、
「もう、さやうなら、サンタマリア。」と斯う言つた。
「おや、何だつて?さよならだ?」月が俄かに象に訊く。
「えゝ、さよならです。サンタマリア。」
「何だい、なりばかり大きくて、からつきし意気地のないやつだなあ。仲間へ手紙を書いたらいゝや。」月が笑つて斯う云つた。

「オッペルと象」宮沢賢治